南千住から世界へ

今から5年ほど前、一本の電話がありました。
「抜き型を作って、少し硬い紙を抜き加工してほしいのですが・・・2000枚。」
当時から抜き加工サービスは行っていましたので、もちろんお引き受けしますと返事をさせて頂きました。お名前を伺うと、kad | Katagiri Architecture+Design という建築士事務所のご担当様。建築事務所のお仕事のお手伝いとなると、私の知見では建築模型を作るくらいしか想像できませんでした。今まで接点のなかった業界からのご依頼です。

後日、ご来社頂きお打ち合わせ。
お仕事の内容は、カンタンな形状のトムソン型（ビク型）の製作と、樹脂に似たユポ紙を2000枚プレス抜き加工。
図面を拝見すると、長方形の板紙に細長い角穴とスリットを入れるだけの簡単な形状。「丸めて、積み上げて、作品にします。」とお聞きしましたが、実際のところピンときていませんでした。ただ、フランス南部のモンペリエという都市で展示されるとのことで、不具合があっても対応が難しいです。仕上がりはもちろん、必ず納期に間に合わせなければと作業を進め、無事に作業完了。重い荷物を台車に載せて帰られた思い出がありました。

先月、また一本の電話がありました。
「5年ほど前に加工して頂いたのですが、覚えていらっしゃいますか？」と再びのご連絡。印象深かったので「もちろん、覚えています。」とお返事させて頂きました。

「また同じ加工をして欲しいのですが・・・4000枚。」

再びご来社頂きお打ち合わせ。
前回、弊社で抜き加工したユポ紙は紙環ユニットとして積み上げられ、”PAPER CLOUD“という作品になり、賞を受賞されことをご報告頂き、驚いた次第です。まさか弊社のような町工場で作られたものが海外で展示されるとは思っても見なかったことで、感動しました。

次は2022年8月に海外での展示をされます。現在弊社でも鋭意製作準備中です。2017年に製作した倍の数量ですので、どのように組み合わせた作品になるのか、楽しみで仕方ありません。

南フランスの古都モンペリエで開催された国際建築フェスティバルに、紙環のパビリオンを計画した。

旧市街地に点在する12の中庭に、各国から選ばれたグループがそれぞれパビリオンを計画するものだった。

私たちに与えられた中庭は、14世紀にSimon Levesvilleによって建造されたHotel Mirmanと呼ばれる建物に位置し、文化遺産にも指定されているものであった。

そこで重厚な石造の街並みに呼応しながらも、軽やかでしなやかな紙の組積造を提案した。

紙の特性を活かし輪っか状に丸めることで、垂直方向に強く水平方向にしなやかな構造ユニットとした。

約2000枚の紙環ユニットには、型抜き加工によって施された鍵状のスリットがあいており、互いに差し込みながら全体を積み上げていった。

このシンプルなジョイントシステムによって、条件に応じて様々な形状に組み上げることが可能であり、移動の際にはフラットにたたむことでコンパクトに収納することができる。

この伸縮性をもった構造体の体積は、組み上げることで100倍以上に膨れ上がる。

紙環の組積造の塊は、中庭に差し込む光によって刻々と変化する環境と呼応する。

光の変化にグラデーショナルに反応した構造体は、徐々に輪郭をなくし雲のように周りの空気に溶けこんでいく。

引用：kad | Katagiri Architecture+Design | PAPER CLOUD

展示された作品のお写真をお送り頂きましたので、ご覧ください。

大きな書店でしたら取り扱いがございます。ぜひご覧になってくださいませ。